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「せっかく、辰野町でこんなに美味しいお米がとれるのだから、地元の人にこのお米を食べてもらいたい」
そう語る瀬戸真由美さんは、いつもイキイキはつらつとしてアクティブ。良いアイデアはないかといつもウズウズしています。
話していると知らぬ間に元気が伝染してしまいます。
農業もやり方次第で面白くやりがいのある仕事になると感じた真由美さん。ただ売るだけではなく販売方法を変えるなどすると工夫次第では、販売促進につながってゆくのではと感じたそうです。−そう想うきっかけは何だったのでしょうか?
「当時、地産地消という言葉がテレビなどでも盛んに囁かれていました。うちの田んぼでとれたお米はこんなに美味しいのに、農協に卸すと上伊那産もしくは長野県産のお米として売られます。何より個人販売なら、自分たちがつくったお米を買って食べてくれるお客様と対面できる訳ですから、反応もダイレクトでやりがいにつながると思ったんです」
−それが瀬戸ライスファームのはじまりなんですね。
「はい。お米はスーパーで買って持って帰るのは重たいし、男の人がいないとお米が持って帰るのも大変という話もよく聞いてました。当時、食品偽装などがニュースで頻繁に報道される中、子どもには安心した物を食べさせたいという声も多くありました。顔の見える人から安心安全なものを食べさせたい母心、親心。逆の立場で考えると私もそうしたい。それを提供したいという想いがありました」
こうして個人販売の方法を取ってから、口コミで客数はどんどんと広がったといいます。
「美味しいお米だねと言ってもらえたり、配達してくれていつもありがとうねと感謝してもらえたり、そうした人との繋がりって快感なんです」
そうにこやかに話されます。こうした個人販売に踏み切ったのも自分の所の田んぼで美味しいお米が作れている自信からですね。 -
「うちの田んぼで使う農薬は最低限に抑えています。そうするとどうしても稗(ひえ)や雑草もどんどん生えてきて大変なんですが、シルバー人材センターに頼んで草刈りを手伝っていただいたりして対処しています」
−土にもたいへん気を使っていると伺いましたが?
「はい、土は専門機関の方に毎年、土の検査をしていただいています。リンや窒素の検査をして土のコンディションを診てもらいます。またその年に収穫した米の等級などを診てもらいデータ化します。それを次に作付けする参考にするんです。肥料もうちの田んぼの土のオリジナルの物をつくっていただいています。土は、その土地土地の個性を持っていますから、農地によって土の個性も変わってくるんです。良い米作りをするに土のコンディションを知ることはとて
も大切なんです」そして米作りには良い水も欠かせません。
昔からこの辺りでは天竜川の水で育ったお米が美味しいという話を聞きました。「天竜川から直接水を引き込んだ田んぼの米の方が美味しいといわれる理由は、自然環境の中で流れる水には様々なミネラル分や有機物、微生物などの栄養素を多く含んでいるからかもしれませんね」お父様が田んぼをしていた頃から、高齢化で作付けが出来なくなった田んぼを荒廃農地にしないために瀬戸ライスファームが管理している田んぼは、様々な環境下にあり、その土壌に合わせた米の栽培など細部にわたりこだわっているのがひしひしと伝わって来ます。
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「瀬戸ライスファームのウリは、なんといっても精米したてのお米をお客様にお届け出来ること。また、ご自宅前には自動販売機の設置もしており、前日の夜、または当日に精米したお米が購入できます。宅配便などで発送する際も精米したてのお米を梱包して送ります。
「 こうした精米したてのお米をお客様へ届けるという取り組みは10年前のスタート時からずっと続けていることなんです。精米機を持っていて、なおかつ個人販売である当社の強みですね」
ひと手間を惜しまず、こうしてこだわった米作りをされ、精米したてをお客様に届けるといった作業工程が多いにも関わらず、とてもお手頃な値段で提供されていますね。
「お米は、業者が介入するごとに値段も増してくる訳ですが、作付けから販売まで一貫して行っていますので人件費も削減できます。お手頃価格で提供できるのは、そうした理由からです。そして生産者である私たちから直接お米が買うことが出来ることは、何よりもお客様の安心につながると思っています」
以前にも取材した先などでも、これからの時代は品質や値段に価値を置いた商売は成り立たない。これからは人で売る時代だという話がありました。
スーパーや市場などでも、生産者の顔が分かったり、商品のラベルから生産者の情報が読み取れるものなどが増えている現状がありますね。
ここ何年も食品偽装や遺伝子組み換え作物などのニュースが絶えず流れる中で、消費者は安心安全を求めていると感じます。「米の自由化やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)など農家はいつもそうした問題と隣り合わせに居ます。でも良い米づくりをして、お客様と信頼でつながっていれば、たとえそうした問題が起こってもそんなに影響はないじゃないかと思うんです。安価で大量の物が入って来ても、その農作物がどの様な工程を経ているかに着目すれば、自分たちの健康を守るために何を選ぶのがベストなのかは、自ずと分かって来ると思うんです」
まったくその通りですね。政府の方針と消費者の想いには現在、大きな差が生じているように思えます。私達の健康に直接関係してくる食に関して、安心安全を求める声は、これからどんどん大きくなっていくと感じます。
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お米は、こしひかりとミルキークイーンを栽培しています。また、真空パックのお米もあるとか。
「2キロのお米を真空パックしたものと、2 合のお米をキューブ型に真空パックしたものがあります」
-2合の真空パックされたキューブ米は、サイズが小さくとても可愛いですね。食べきりサイズの分量で、とてもいいアイデア商品ですね。
「結婚式の引き出物やお歳暮などの贈答品に最適で、辰野町のふるさと寄付金の返礼品にもなっている人気の品物です」
その他、瀬戸ライスファームで取り扱っている商品
玄米・もち米・コシヒカリの米粉(微細粉・上新粉)・白玉粉・凍り餅など…。
凍り餅は、長野県の郷土食。餅を水に浸して凍らせたものを寒風に晒して乾燥させた保存食。
干し餅( ほしもち)、凍み餅( しみもち)、凍み氷(しみごおり)ともいう。お客様を想いながら心を込めた手作業と勉強熱心で探求心旺盛な瀬戸真由美さんのアイデアが新商品誕生へとつながり
ます。
お客様の視点を大事にされているからこそ、こうした閃きもあるのでしょう。 -
年末は陽が昇る前から餅つきの準備をするという。
「年末に期間限定で切り餅の販売もしています。昔ながらのやり方で、薪でもち米を蒸かし杵と臼でついて作ります。父と主人と私とで5升(7.5㎏)を一度につくんです。これがつきあがると、だいたい12 ㎏くらいの餅になります。その餅を1 メートル四方にのして、切ったモノを販売したんです。1 日5 升を5 回つくのですがかなりの重労働でした。たくさんは作れませんが、昔ながらの餅を食べていただきたいという想いからつくらせて頂きました」
私も食べさせていただきましたが、とても美味しい杵つき餅でした。
ご家族で苦労してついたお餅なんだと思うと、食べる際に感謝の気持ちも湧いてきます。
何気なくスーパーで買い物をして食事をしていると、こうした感謝の気持ちも忘れがちになってしまいますが、顔が見れて直接お話しする機会もある生産者から購入することは食べ物を大切に想う食育にも繋がっていくと感じました。「私達は、これからも更にお客様とのつながりを大切にし、安心して召し上がっていただけるお米を提供する。そんな米農家でありたいと思っています」
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そんな人との繋がりをとても大切にしている瀬戸ライスファームさん。
-辰野町で行っている実践型インターンシップ事業でインターン生の募集をおこなっていると伺いましたが。
「町でインターンシップ事業の話を聞いた時は、何も知らない学生を呼んだところで何も出来ないでしょうって思っていました。でも、実際にインターン生に来てもらった事業所の方の話などを見聞きしていると、私の中の思い込みの枠が外れたんですね。例えば2015 年に、春日自動車さんに来たインターン生は女の子でしたが、様々なアイデアで新規のお客様を取り込むなど、取り組みが大変興味深かったんです。自分たちがしている仕事を手伝ってもらうのではなくて、自
分たちの手の回らない所や弱い部分を助けてもらえばいいんだって気付いたんです」キューブ米や米粉を製粉して売るアイデアなど出してきた瀬戸ライスファーム。
ここから先の販路拡大を含め、更に発展させるために学生たちが出してくれるアイデアに期待しているといいます。「インターンシップへの参加の話を持ち掛けられたときには、してもらいたいと思うことがあったのですが、学生のアイデアで、どのような販路拡大の道があるか提案してくれたら嬉しいです。パッケージで遊んでみる。売り方で遊んでみるなど、自由な発想やアイデアで是非、うちのお米を宣伝してもらいたいですね」
好奇心旺盛な瀬戸真由美さん。明るく元気なご主人瀬戸真一さん。
お客様を第一に考えるサービス精神とひと手間を惜しまない仕事へのこだわり。
瀬戸ライスファームの更なる活躍が楽しみでなりません。